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発掘された




GAME


 しっとりとした空気をたたえた森の中を、僕は歩いている。水を含んで腐った落ち葉を踏みしめるのは、靴を履いていても気持ちが悪い。
 ガサッ!
 背後からの気配に、素早く身を翻す。同時に、用意していた光線銃を両手に構える。
「やっぱりまだ残ってやがった!」
 小さく舌打ちして、”奴”の急所に狙いを定め、撃つ。
 ぶしゅ。
 相変わらず嫌な音を立てて死ぬ奴だ。僕は一応、生死を確かめるために、動かない”奴”に近寄った。
 人間に似た顔面は、全ての穴という穴が開ききっている。頭の割には妙に小さい、コウモリみたいな身体には、ど真ん中に小さなトンネル。僕が今作ったやつだ。
 よし。急所から5ミリもずれてない。ますます腕があがった。
 これで思い残すことなく、次のステージに進める。と、思った瞬間、
「いいかげんにしなさいよ」
 ゴーグルを奪われ、現実世界に引き戻された。視界がぐっと狭く鮮明になる。狭い部屋。狭い家。限界ぎりぎりまで近づけられた、母親の顔。
「休みだからって、朝から晩までゲームばっかりやって! いくら呼んでも来ないんだから! ご飯よって何度言ったらわかるの!」
 うるさいな。
「こんな眼鏡つけて自分の世界に引きこもって」
 眼鏡じゃねえよ、あほ。それに、”この中”はこっちの世界なんかよりよっぽど広いんだ。もっと刺激があって、やりがいがあるんだ。何も知らないでごちゃごちゃ言うな。
「まったく。たまにはテレビでも見て、想像力を鍛えたらどうなのかしらね」
 母親は、僕の心の声になんか気づくこともなく、居間に消えた。


 居間で、母親と二人、うまくもまずくもない昼飯を口に押し込む。うまくもまずくも、というより、味自体があまり感じられないみたいだ。
「で、どうなってるの? 宿題、出てるんでしょ?」
 くそ。どういうつもりだ。僕が宿題の存在を忘れてるとでも言うのか。僕のことは僕が一番よくわかってる。
 しばらく黙っていると、また同じ質問をされそうだったので、僕はわざと音を立てて食器を置き、部屋に戻った。


 ゴーグルをつけ、冒険を再開したとたん、また母親がやってきた。
「もう今日はよしなさい! 朝からやりっぱなしじゃないの」
 母親はゴーグルを持っていった。
 ふざけんな。やめさせる理由が理解できない。そもそもそんなもんないんだろ。ただなんとなく、「テレビでよくないって言ってたから」それを真に受けてるだけじゃねえのか。
 部屋を出ようとする母親の背中に、僕はナイフを突き刺した。
 ナイフだって?
 僕はそんなもの持ってたか? たった今までゲームをやっていたのに。確かにゲーム中では光線銃は持っていた。けどナイフなんて・・・。
 でも現実に、僕の目の前には、血でできた水たまりの中に倒れた母親がいる。
 訳が分からなくなった僕は、何故かその時、目元に手をやった。
 今奪われたはずのゴーグルがある。
 ?
 慌ててはずしてみた。
 そこは、いつもと変わらない、狭くて、間延びした空気が流れる、僕の家だった。
 今のは何だ? 新しいゲーム? いや、入れた覚えはない。じゃあなんで。
 考えてもわからない。僕はとりあえずもう一度ゴーグルをつけて、ゲームの世界に入った。


 すごい。現実世界そっくりそのままだ。ただ一つ違うのは、全てがにせ物だってこと。僕の意識だけが本物の、嘘の現実。変な言い方だな。
 足元には、さっき倒した母親がまだある。僕はそれをまたいで、”家の外”に出た。


 なにをしようかと考えたが結局、いつもやってるゲームと同じ事しかおもいつかなかった。
 殺戮。
 いつもは醜い外見の怪物。でも今度のゲームは違う。もっとリアルに、現実にいる人間を殺せるんだ。これはゲームの中ででもないと、本当にできない。


 面白いかと思ったが、わりと手応えが無くてつまらなかった。一般市民は、何の戦略も持たず、ただ歩き回るだけ、逃げ惑うだけ。ナイフだけで、僕は無敵状態だ。
 初めは、ちょっとした新鮮さがあったが、ゲームとしてはあまりにも、という感じだった。
「もうやめよう」
 ゴーグルに手をかけたとき、目の前に何台ものパトカーが停まった。
 プロだ!
 これなら少しは楽しめるかもしれない。僕はゴーグルをはずすのをやめ、もう少しこのゲームを楽しむことにした。
 はずだったんだけど。
 一人の警官の銃口が光ったと思ったら、ゲームがフリーズしてしまったのだ。
 周りが動かないのはもちろん、僕自身も全く動けない。動けないが、意識と目だけは生きている様だ。
 こんなバグってあるんだろうか? これじゃゲームを終わらせることもできないじゃないか。もう二度とやらないぞ、こんなゲーム。
 まあいいや。そのうちあの母親が、ゴーグルを奪いにやってくるだろう。ちょっとつらいが、それまでがまんするか。


 しかし、いつまで待っても、母親はやってこなかった。
 僕はずっとゲームの中でフリーズしている。


 僕の葬式で母親は、こう言って泣いたという。
「自分の胸をナイフで刺すなんて・・・! 痛かったでしょうね。一体、何がそんなにつらかったって言うの?どうして何も話してくれなかったの?」
 話そうにも、その瞬間まで僕には何一つ問題はなかったんだ。つらいことなんてありゃしなかったさ。あってもあんたには話さない。


 でも、だんだん強いことも思えなくなってきた。本格的に。
 何もわかってなかった母親でも、僕を現実に戻すことだけはできたのに。


 誰か助けて。
 リセットを押して。
 僕の意識を解放して。


 僕の身体がうらやましい。



20年前にやってたサイトにこっそり置いといたおはなし。
そう言えばそんな隠しページ作ってたっけ、なんて思いながら読んでたけど、当然のようにオチさえ覚えていなかった。
う〜ん、若いね!
ひとごとなので深読みだってできちゃうぞ。
踏みしめる感覚があるってことは、コントローラーで操縦するんじゃなく、脳と直接的につながるタイプのゲームなのかな、とか。
母親が「テレビでも見て」なんて、ちょっとズレたこと言ってるのは、この時代にはテレビ以上の高尚な情報源が存在してないって意味だな、とか。
ナイフなんか持ってなかったって言ってたのに、ナイフで胸刺して死んだってことは、自分でやったんじゃないのかもな、とか。
当時VRとか今ほど身近じゃなかったから、完全なる想像というか妄想というか。
だから全体的にそんなに意味があるわけじゃないとは思うよ。
多分これは「ドラえもん」の「うつつまくら」辺りに影響を受けているんじゃないかな。

テーマ : 日記
ジャンル : 日記

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No title

踏みしめる感覚ってところと
テレビでも見ては
私も少し気になりました。

でも よみいってしまう感じでしたよ

なんていうか黒ゆとりさんて
文章で景色を想像させるのが
上手ですよね

Re: No title

>素もももさん
やっぱり気になりますよね。
……書いたの自分ですけれども。

いやー、正直、読んでいただけただけで大変嬉しいのです。
文章で景色を……ほんとにそうだったらもっと嬉しいのでぅやっふー!
ありがとうございます!

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